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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)8049号 判決

原告 中村織雄

右訴訟代理人弁護士 三輪長生

被告 鎌田九助

右訴訟代理人弁護士 阿部一男

被告 西村喜三久

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、別紙目録記載の建物がもと被告鎌田の所有に属し、昭和三三年一〇月一五日原告が同被告に対し金五〇万円を弁済期同年一一月一四日の約で貸付けることを約し、その担保として抵当権設定契約がなされると同時に原告主張の代物弁済の予約がなされ、その主張の登記手続がなされたことは当事者間に争がない。

二、よつてまず貸付金額についての争を判断するに、成立に争のない丙第一号証及び証人松井光吉の証言によれば、前同日一ヵ月の利息として金三万円、火災保険料名義で金四〇〇〇円、公正証書作成費用名義で金四五〇〇円、印紙代として金一五〇〇円合計金四万円が天引され、金四六万円が現実に被告鎌田に交付されたことが認められ、証人篠崎武雄の証言及び被告鎌田本人尋問の結果によれば、篠崎は被告鎌田の受取つた金員から仲介手数料名義で金二万五〇〇〇円を取得したことが認められる。ところで右のうち金三万円は一ヵ月の利息として天引されたものであるから、利息制限法第一条、第二条の規定により、そのうち金七五〇〇円を控除した残金二万二五〇〇円はこれを元本の支払にあてたものとみなされることになるが、その他の金員は各費目の実費が明確でない以上、一応契約締結の費用又は同被告が将来支払うべき保険料の預り及び仲介者に対する礼金と認めざるを得ない。(もつとも前記各証言及び供述によれば、右仲介手数料は原告が篠崎の名をかりて天引したのではないかとの疑がないでもないが、しかく断定するに足る確証はない)従つて原告の被告鎌田に対する貸付元本額は金四七万七五〇〇円となる。

三、ところで被告等は前記代物弁済の予約が公序良俗に反する旨主張するので、この点につき検討するに、成立に争のない甲第一号証、乙第一号証及び被告鎌田本人尋問の結果によれば、本件建物は同被告が昭和三三年七月頃から十月上旬までの間に金一三〇万円前後を支出して建築した建物であるところ、間もなく同被告は木材営業資金として少なくとも金七〇万円を調達する必要上、篠崎、松井等に対し本件建物を担保とする右金額の貸付又はその周旋を申込んだところ、右両名は金七〇万円程の融資が可能であるようにほのめかし、一まず金五〇万円を貸付けて前記各登記をなさしめた上、後日金二〇万円程度の貸増を周旋するかのように申向けて、被告鎌田をして金五〇万円の債務につき前記予約をなさしめたことが認められ、この事実は証人篠崎武雄の「後日右被告から金二〇万円の追加貸付の申込があり、自分は二番抵当をつけるなら貸してもよいと答えた」旨の証言によつても裏付けられるところである。

右認定からすれば、本件貸金の過程において原告が被告鎌田の窮迫に乗じ不当な代物弁済の予約をなさしめたとはいえないが少なくとも新築勿々で価格金一三〇万円前後の建物を金五〇万円未満の債権の弁済に代えて一ヵ月後にはその所有権を取得し得る結果となり、著るしく過大な利益を得ることを目的とした契約であつて、その成立の経過に鑑み公序良俗に反する無効の合意といわざるを得ない。

四、従つてたとえ被告鎌田がその債務を弁済しなかつたとしても原告はその抵当権を実行するは格別、代物弁済として本件建物の所有権を取得することはできないものというべく、所有権に基く原告の本訴請求はこの点において既に失当であるから、爾余の点につき判断するまでもなくこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤完爾)

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